修練館道場長-渋谷力の思い

私が以前、合氣道を稽古していた「紘武館道場」では、稽古始め会、納会、祝い会等では、必ず「武田節」を歌い、絆を深くしていました。これは、松村館長がとても大事にしていたことです。この歌の中に挿入されている詩吟が、皆さん良くご存じの「疾如風 徐如林 侵掠如火 不動如山」です。「風林火山」と共に甲斐武田軍の軍旗の文字になっています。今回はこれについて記載してみます。最も参考にした資料は、「孫子の兵法」 松下喜代子著であります。長い文章ですがご参考下さい。

孫子の第七編 軍争の第三節
【目的】:敵を攪乱して勝ちを得る方法を説いた戦術

故に兵は詐(さ)を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。
故に其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、知り難きこと陰の如く、動か不ること山の如く、動くこと雷の霆(ふる)うが如くして、郷を掠(かす)むるには衆を分かち、地を廓(かこ)むるには利を分かち、権を懸(か)けて而(しこう)して動く。迂直(うちょく)の計を先知(せんち)する者は勝つ。此れ軍争の法なり。

孫子では次の様に記載」されている。
「故其疾如風 其徐如林 侵掠如火 難知如陰 不動如山 動如雷霆」

雷霆:(らいてい)・・・・・かみなり、いかずちの意味
霆(てい)の意味は、雷の激しいもの。今の用語としては『雷震』(らいしん)が当てはまると考えています。

【迂直(うちょく)の計】
詐(さ)・利(り)・分合(ぶんごう)という三段階(さんだんかい)の戦術があって初めて「不利な状況を有利にする」という目的を果たせる。

「詐」(さ)では、敵に目くらましをしかけ、「こちらが不利ではないのかもしれないと思わせる。
「利」では、判断ミスを犯した敵に動機づけを与え、有利な条件を捨てさせる。
「分合」(ぶんごう)では、行動をおこした敵をかく乱し、戦況をこちらに有利なものに切り替える。
特に「分」(ぶん)、つまり小隊の動きが重要になる。
孫子はこれを「風」、「林」、「火」、「陰」、「山」、「雷震」の6つに分けている。

分合(ぶんごう)6つの動き
風:すばやく進軍する → 敵軍に追撃させる
林:ごくゆっくり整然と進撃する → 敵を誘い出す
敵の目先で陽動作戦を行う「風」と「林」

火:適地を占領・略奪する → 敵に援軍に向かわせる
陰:ゲリラ戦をしかける・待ち伏せする → 敵の戦力を削ぐ・分散させる
後方での作戦を行う「火」と「陰」

山:待機して威圧する・退却せず応戦する → 敵を足止めする・好機を待つ
雷震:急襲をしかける → 敵軍を混乱させる
小隊が集まり【合】(ごう)となり作戦を行う「山」(ざん)と「雷震」(らいしん)

武田信玄は「陰」と「雷震」をどうして外したのでしょう。実はここが最も大事なことだ
ったので、二つの言葉を封印していたのではとの説もあります。

孫子・・・孫武(そんぶ)の敬称
孫子・・・中国(ちゅうごく)、呉の孫武(そんぶ)が著わしたとされた兵法書1巻13編
戦略(STRATEGY)、戦術(TACTICS)を総合的に説いて思想性をもつ。

「孫子」は、中国、宋時代に武学における学習すべきものとして定められた武経七
書(ぶけいななしょ)の一つである。「孫子」以外には、「呉子」(ごし)「尉繚子」(う
つりょうし)「六韜」(りくとう)「三略」(さんりゃく)「司馬法」(しばほう)「李衛公問対」
(りえいこうもんたい)がある。日本兵法の源流でもある。(詳細は新参謀学参照)

「孫子兵法」を印刷物として発行事業(1606年)を推進したのは徳川家康だっ
た。このとき刊行されたのは、上記の武経七書を一冊に納めたもので、「孫子」はその冒頭に置かれた。但し、家康が最初に出した兵書は、孔子門下の話を集めた「孔子家語」(こうしかご)、紀元前11世紀頃の軍師・呂尚(ろしょう)俗称:太公望(たいこうぼう)ゆかりの兵書とされる「六韜」「三略」の方が6年先だ。
(孫子の兵法 松下喜代子著 P.140)

我々になじみのある「呉越同舟」「正々堂々」などの四字熟語、「彼を知り己を知
れば百戦して殆うからず」「兵とは詭道なり」など、「孫子」には有名な言葉が多い。

これまで読んだ、歴史小説の中で、最も孫子に言及しているのは「海道龍一朗」
著『我六道を懼れず」であると思う。武田家に臣下の礼をとった真田幸隆、その
三男真幸の話である。武田信玄が信頼していた真幸は、幸村の父である。信玄
の考えの根底にあるのは、孫子のあくまでも戦わずして勝の思想である。
また、海道龍一朗氏には、「真剣」-新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱、新潮
文庫がある。長い文ですがお薦めします。

平成30年 弥生
春分の日頃


参考資料:
1. 新参謀学  加来耕三著  時事通信社 2007.4.1
2. 孫子の兵法 松下喜代子著  西東社 2013.11.15
3. 孫子の兵法 飯島勲著(元内閣参与) プレジデント社 2016.5.20
4. 孫子の兵法 信念と心構え  青柳浩明著 日本能率協会 2017.3.30
5. 「孫子の兵法」がわかる本 守屋洋著 三笠書房  2017.6.1
6. 「図解兵法」  大橋武夫著 ビジネス社 1980.11.5 18版
7. 中国古典名言事典 諸橋轍次著 ㈱講談社 1979.3.30
8. 「我六道を懼れず」 (上下) 海道龍一朗著 PHP

習錬館_渋谷師範


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